韓国にみる教育改革の一端 | ||
根岸 秀孝 数学教育の会 提示原稿 於 学習院 1/13/2001 |
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ページトップへ | Curriculum Reform: 韓国における教育改革は、我が国と同様に、学習指導要領を柱にして進められている。 第6次から今般実施の第7次学習指導要領への移行において、経済危機にみまわれたことにより、第7次の創案、準備、実施までには、通常以上の年月が要した。 本来ならば、1997年を目指していたわけであるが、この間に修正、改良が加えられ、実際には2000年春、小学校でスタートし、2001年に中学1年、2002年には 中学2年、3年、2003年の高校という順でそれぞれ新教科書により実施される。 韓国の教育目標、狙いなどは、日本のそれと大変良く似ている。 数学においては、知識の教え込み、計算の偏重から、数学的活動を大事にして、身近の現象に関連したかたちで数理を学習し、考え方、創造性を大事にしている。 そして、情報技術等で変化していく新しい社会に対応した数学教育を考えてテクノロジー活用を重要視している。 当然、コンピュータ、計算機の活用が明示され、そうした記載がある。 The main direction of mathematics in the 7 th curriculum is focused on the following subjects. 1) Individual ability, and potential for future. 2) Basic knowledge of mathematics 3) Dynamic activities 4) Interesting and confidence in learning mathematics 5) Using calculators, computers, or concrete materials as tools for learning. 6) Using various methods for teaching, learning and evaluation. この内容をみると、我が国の目標と比べて相当似ていることが理解できよう。 実際この2年間の観察からいえることは、その方針に基づいた新しい方向に向かって、創造性をつちかう数学教育とはなにか、テクノロジー活用の授業とは、その効果は? といった研究活動が、大学の研究室を中心に実験授業とともに盛んに起きている。 今年3月から始まる中学1年の教科書は検定後、5、6 冊が最終的に残った。 文部省からの要請で機密を保ち委任された大学の教授、教師による委員会が形成され、審査が進んだ。 予備選定された教科書に彼らが注文を出し、テクノロジーを学習の道具としてより一層活用するようにとの変更があり、教師用の教科書解説書が編纂された。 しかしながら、よくあることではあるが、過去の慣習からの脱皮は充分といえず、審査委員会ではその改革度合いに対しての不満が残るものとなった。 中学2年、3年、高校1年の教科書ではさらなる改革が盛り込まれるという。 数学の場合、高校1年の教科書までは何社かの教科書出版会社が編纂したものから審査され、5,6冊が使われる。 我が国でも観られるこうした複数の教科書出版社による競合がゆえに避けられない状況‘変革へのブレーキ’を考え、文部省では思い切った施策を高校の教科書開発に課すこととなった。 確実な指導要領の実現にむけて、高校2年、3年で教えられる教科−実用数学、数学I、数学II、微積分、確立・統計、離散数学と選択科目もふくめ、執筆責任者が指定されることになった。 すなわち、各科目とも教科書が一種類となる。 すでに大方の執筆責任者が選定された。 たとえば、微積分は xx大学のyy教授が執筆責任者となり、その草稿が教科書審査委員会の検討を経て発行される。 ここにある種の危惧が存在するとの意見もあろうが、改革の方向を確実に実行する強い意志が重視され、新しい授業のために教師研修が、また、教師個々人の工夫を大事にする態度も重要視される。 大学入試: 2002年度実施の大学入試改革が計画されている。 現在の全国共通の試験結果によって合格・不合格が決まる方法を改め、むしろ、米国のSATのように、高校での履修資格ともいえるテストに変えていく(College Scholastic Ability Test‐CSAT)。 このテスト結果と、高校での学習成果、すなわち、毎学期の学習の進展と評価、部活動その他学内の活動記録、さらには学外での活動と資質、外部資格認定(例えば英語検定試験等)、教師、校長の推薦状、を広く適用する仕組みとなる。 各大学では2次選考として受験生との面接、小論文提出がオプションとなり、各大学にまかせられる。 この大学入試をにらんでの新しい高校教育への脱皮、改革が要求されている。 教師に求められるのは、これまでのように単なる学期毎の試験結果のみでは成績評価が出来ないとされる。 すなわち、一方向的な講義形式による知識の伝達と、その定着を試験という形で確認していく一義的な成績主義からの脱皮である。 このことは、とりもなおさず教師に対する新しい資質の要求となる。 講義形式による伝統的な授業から脱皮し、生徒一人一人の学習機会を創出し、考える学習、体験し活動する学習、お互いに意見交換ができる学習のなかで、それぞれの学習進展の機会が望まれ、その進展を成績として記録することとなる。 授業のなかで、生徒個々人の伸長への支援、その公正な観察と記録が求められる。 数学では、計算機等の有効活用が促進される授業となろう。 事実、去年12月末から1月末(冬休み中)にかけて、釜山市(政令都市)で行われる第7次改革のための数学教師研修(主任級教師対象)では、25日間延べ180時間のコースで、テクノロジー活用の授業を促進する講座が30%に及ぶ。 これは、文部省の管轄で各県の教育庁・教師研修所が実行する全国規模の研修で、他の地区でも同時期に行われる。 この新しい仕組みに、我が国のAO入試との類似をみるかもしれないが、むしろ、AO入試における教師への負担軽減ともいえる状況とは逆で、教師側に求められているのは、教育とは何か、学力とはなにか、生徒に対する教師としての責務、役割とは、という問いかけと、その実践が一層求められる仕組みとなる。 この新システムへの移行にとって重要になるのは教師研修であるとの考え方は教育系大学教授、文部行政官のあいだでは深く認知され、 先述のように研修が実行される。 英才教育: 韓国と日本の教育で、大きな違いの一つに高校での英才教育がある。 理数系志向の優れた学生が集まるScience High School、言語科目重点のInternational High School、芸術系の Art High School があり、基本的には全寮制をとっている。 筆者が訪問した釜山科学高校での見聞だが、生徒達の目標のひとつは、2年間で高校の履修を終え大学に進むというのがある。 5割を超えた学生が2年で卒業し大学進学を果たしている。 自習室が完備され、多くの生徒たちが放課後、個人ブースで勉学に励んでいた。 見学者には軽い会釈をするだけで、黙々と勉学に励んでいる景色に圧倒された。 個人ブースは、在学中の専有の場で、それぞれ個性が感じられるピンアップ、カレンダー、書籍などで各人の雰囲気をつくっている。 勤務時間を過ぎた先生たちも、こうした生徒が質問、相談にくるかもしれないとの気配りで、なかなか家路につき難いともらしていた。 すごい教育現場である。 ここの卒業生は、大学ではなくて生徒の方が大学を選ぶという逆の立場にある。 わずか1時間の見学ではあったが、いわゆる受験戦士とは全く違った生徒像を垣間見ることができた。 美術室にあるデッサン、絵画も素晴らしく出来がよく、生徒のなかにはスポーツにたいへん優れた学生も多くいるとのこと。 教師の部屋は個室で、我が国の大学教授の研究室と同様である。 事務方スタッフの充実、実験室の助手など、普通高校とはくらべくもない。 授業準備にも余裕をもって専念できる。 生徒たちとの接触は休憩時間の僅かのものではあったが、礼節も行き届き、なによりも印象的なのは生徒ひとりひとりの顔がいい。 彼らエリートの多くは、ゆくゆく行政官になり、企業の管理者に、企業家に、医者にと、それぞれのプロなるわけだ。 何が違うのか?: 世界の国々における数学教育の改革には共通点が多い。 むしろ違いを指摘することの方が難しい。 どの国でも、どうすべきかとの願いは共通する。 違うのは、変化を起こす勇気があるか、無いか、実践に移すか否かということになる。 文部行政、教育大学、教育学会がいかにリーダーシップをもって、目標に対しての実践、実行を設定し、予算をつけていくかにかかっている。 皆でいっしょに考えていっしょに行動するというよりは、必ずや、その改革に対し、誰かリーダーが存在し、文部行政、教育実践が実行されていくということではないだろうか。 日本でもかつてはそうであったように、韓国では、先生自身がもつ教師職への強い誇り、親が感ずる教師への敬意はしっかりとしているようだ。 また これはある大学の教授で日本の教育界にも深く縁のあった人から聞き及んだ話だが、韓国の高校教師の数学力はなかなかのものだということを改めて思い起こす。 米国と日本の教育をこの10年間 観察して思うのは、韓国においても今後10年には、登校拒否、学級崩壊、17歳の犯罪、等々、同じようなことが起こらないとも限らない。 しかし、現在の変化への意気込みをみるにつけ、この国の潜在パワーと、変化への対応の速さには感銘せざるを得ない。 (HN) |
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