スーパーサイエンスハイスクール」への想い
 
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 平成14年、文部科学省の理数教育充実の政策である「スーパーサイエンスハイスクール」が年度予算7億円でスタートした。すでに26校が指定校となり、各学校ではその詳細企画と予算申請が始まった。文科省によるその趣旨は;

    科学技術、理科・数学教育を重点的に行う学校をスーパーサイエンスハイスクールとして指定し、高等学校及び中高一貫教育校における理科・数学に重点を置いたカリキュラムの開発、大学や研究機関等との効果的な連携方策についての研究を推進し、将来有為な科学技術系人材の育成に資する。

となっている。初等中等教育局、科学技術・学術政策局を中心に提示されたその構造案をみると、大学を含め現存する文科省関連機関等との協力・連携推進が謳われていてる。http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/14/04/020416a.htm
各指定校が提出した研究内容を概観すると、この構造図がガイドとなり、むしろ足かせになっているのではないかと思われるほどに各校たいへん似通ったものになっている。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/14/04/020416c.htm
すなわち、多くの指定校の場合、近隣の大学、研究機関との連携協力を計画し、教育課程開発、創造性を高める指導方法の研究開発を狙っている。確かに、最新の実験設備、資料の充実した大学との協力は意味があろう。同時に一考したいのは、現場の先生と生徒が主体となる授業改革に他ならない。生徒の目と目の輝き、あるいはその曇りを毎日の授業のなかで知っている現場の先生方こそ、改革の秘密を知り得る人たちと確信する。生徒と先生の間で工夫される“手作りの授業”が期待される。

 教科「情報」の展開、文科省が推進する「ミレニアム・プロジェクト」等、IT活用の動きのなか、全教室にインターネット接続のPC が配置される日も近い。ここで大事なのはそうした設備充実が先走ってしまわないように留意し、授業展開そのもの見直し、教材の工夫が肝要となろう。
 すでにIT機器、LANが充実した環境にある米国の高校を何校も見て気づくことがある。理科実験室には必ずPCが用意され、勿論、インターネットに接続されている。高額であろうPCベースのデータ測定機も何台か設備されている。しかしながら、そうした立派な機器はカバーの下で放置され、そのカバーにはうっすらとホコリさえ被っている。そして生徒たちは、各自一台のグラフ表示付き電卓を手に、電池で駆動する小型データ収集機を使って実験データを収集している。PCベースの機器よりははるかに簡便にデータを測定し、結果をグラフ画面にプロットする。その回帰分析もやっている。この簡便なグラフ電卓が、実は、理数教育改革にたいへんな意味をもっている。授業の実践的道具である手のひらサイズのテクノロジー、すなわち、グラフ電卓が生徒一人一人の探求道具として使われ、地に足のついた教育改革、理数学習の改善が米国で起きている。生徒たちは、教室の一箇所で行われる演示的実験の観察者ではなく、各自,各班の実験の“当事者”となる。一つ一つの実験が“自分ごと”になっている。生徒たちの間で議論が盛んに起きている。
 この小型データ測定器はセンサー類の充実によって汎用機器であり、物理、化学、生物の各理科実験には不可欠の道具といえる。この3月に催されたNSTA大会−全米科学教師協議会会議でも多くの工夫が観察された。さらに、数学と理科系学習の連携を大切にする米国では、グラフ電卓が必須の教育道具と位置づけられ、素晴らしい浸透が見られる。まさに、“生徒たちの手になる実践的な改革”といえよう。

 「総合学習」が始まる、解りやすい“数学と物理”の融合学習も多々試みられよう。しかしながら、漏れ聞くところ、日本の学校では数学科と物理・化学・生物など理科系との交流、合同授業などはこれまでほとんどないとのこと。今般のスーパーサイエンスハイスクールの試みを通して、いかに数学と理科系の先生方のあいだで交流がもたれるかが期待される。数学は、黒板、チョーク、ノートで予算がかからない教科とされ、学校予算は理科実験室に、という数学の先生のボヤキも今回に限って起きそうにない。理科系の先生としても、欲しかった実験機器が時間数の減少の理由で購入できなかった。さぁチャンスとばかり張り切って、最初の半年の利用のあとホコリを被ってしまうような高額な機器の導入は、是非、慎重にと願わざるを得ない。納税者の一人として。税金投入による国をあげての試みである。

「教師 宮沢賢治のしごと」畑山博 著(小学館)には、彼が花巻農学校で教師をしていたときのなかなかな話がある。これが教育だなと感心する。そして、現在にもあてはまる。日本のよき時代の、よき教師の素晴らしさが甦るような教育改革の試みでありたい。
(2002年6月 根岸秀孝)



 

     



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