「こうありたい教師専門教育」 
韓国の大学院改革
(”学士+4年”の大学院大学新システム)


根岸 秀孝
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韓国では教育改革の一つとして、大学における高度専門職教育のシステム改革が進められている。まず最初に実施されたのが医師・歯科医師養成のシステムで、本年度からスタートした。そして、今後、この改革を法曹界の専門教育、教師教育へと展開させていくというものである。当システムは全大学一律の変革ではなく、大学側から申請により、文部省の認可、助成のもと進められている。

これまでの医学生教育は、わが国と同様、志望者は大学入学時に医学部を受験し、1年次から医学部で教育を受け、ドクターコースに進む。
2002年1月、韓国文部省が発表し、以来、準備が進められていた新大学院システムは 「学士 + 4システム」と称し、医学・歯学教育でこの改革が開始された。
釜山大学の他、進んだ大学では、医学・歯学大学院大学を2005年から新システムに移行している。医学を志す学生は先ず通常の学部(既存の医学部(移行時)を含み他の如何なる学部)で学士を取得し、その修了時に医学・歯学大学院大学を受験する。志願者は各大学院大学が用意するテスト - MEET(Medical(Dental) Education Eligibility Test)を受験し、選抜される。この医学・歯学大学院大学のスタートと同時に既存の医学部(6年間教育)は廃止されることになる。
     
このシステムの最大の特徴は、医学界、法曹界で活躍する高度専門家としてその資質をどう考えるかという点である。国にとって重要な専門家を目指す学生に、より広い学問基盤を要求している。新システムでは、先ず、工学、理学、その他の学部で、学士レベルの学問を習得し、そのうえで、医学を志す確固たる意志をもって上記のMEETを受験する。MEETの準備は文部省の研究助成のもと、研究、開発の努力が重ねられきた。

わが国では法科大学院が多数新設され、法曹界が求めている法律家の養成が起きている。このシステムで数の確保は出来るとしても、果たしてその資質の向上はどうなるのだろうか。韓国における新法科大学院の考え方とは相当な開きを感じざるを得ない。
医学生同様、法律家を目指す学生は先ず、それぞれの学部で学士レベルの教育を受け、その修了時に法科大学院大学を受験することになる。幅広い知識と知恵、人間の幅を求められている医学生と法科学生。なかなか意味のある教育システムではないだろうか。

さらに、韓国文部省では将来必要とされる高度専門家に'教師'をあげている。「学士 + 4 システム」を教師養成教育向けに準備が進んでいると聞く。もしかすると「学士 + 2(あるいは3) システム」となるかもしれないという。将来、教師の多くが修士取得レベルとなる。各専修学部での十分な研鑽のあと、教師になりたいという意志のもとその適正が問われ、教師養成大学院大学でさらなる教育を受けるわけである。

わが国では高校教師養成の専門教育機関(大学)が無いという。それぞれ帰属する大学でいくつかの教員課程講座を修了し、都道府県の教職員免許試験を経て教師になる。なんとも言いがたい韓国との差をどう捉えたらよいのであろうか。

「学士 + 4 システム」というこのシステムの呼称に、もうひとつの教育改革が見えている。学士という言い方で「4年+4年」とは云わない。'学士'を取得すればよく、その年数は個々の学生次第ということになる。高校生の時に「AP クラス」(Advanced Placement Class)を修了することで、学士を得るには4年間は必ずしも必要ないのである。大学で1、2年次の講座を高校のときに修了できるという仕組みである。韓国の高校におけるAPクラスの増加、そして大学院大学。基本的な改革が進んでいる。

わが国ではカリキュラムの見直し、授業時間の見直しと議論が起きてはいるが、はたしてそういう次元でよいのだろうか。先ずは、中等教育で、例えば4-4-4制などの改革、大学での教員養成に関しての改革はどのように進められているのだろうか。


2005年8月 ねぎし ひでたか       「数学教育の会」於:学習院 提示原稿



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